

第15回「トルコで私も考えた 」高橋由佳利
世界に飛び込む女性と優しいトルコ人
紀行文、紀行エッセーというのは世に数多ありますが、紀行マンガというと意外と数が少ないのです。とくに男性の描いた紀行マンガというのは、私の知る限り殆どありません。「インドまで行ってきた!」の堀田あきおくらいかな。
でも女性作家の描いた紀行マンガというのは結構ありまして、有名どころだと西原理恵子の「鳥頭シリーズ」では東南アジアを中心にあちこちの紀行レポが描かれていますね、他には大槻ケンヂもハマったという流水りんこの「インドな日々」とか、「ダーリン外国人」で有名な小栗佐多里の本とか、「テルマエ・ロマエ」のヤマザキマリのイタリア家族シリーズとか…
こうして見ると、旅行先の国で夫を見つけて結婚してる漫画家さんが多いですね。旅行でその国のことを気に入るっていうことは、そこに暮らす人々を気に入るっていうことですから、ある意味当然なのかも知れません。
その手の女性作家による紀行マンガの嚆矢とでも言うべきものが、この「トルコで私も考えた」であります。
イスタンブール第1日目の朝は街中にひびきわたるコーラン(お経)で5時に目が覚めた
そうだ
イスラムの国に来たのである
(「トルコで私も考えた トルコ入門編」高橋由佳利)
日本人にとっていちばん親近感のあるイスラム国というと、この間オリンピック開催場所をかけて争っていたトルコなのではないでしょうか。
そのすぐ後に日本人旅行者殺人事件などもあってイメージが落ち込んだりしましたが、基本的にトルコは親日的で優しい人が多いとよく言われます。
私自身は一回もトルコに行った事はありませんが(メチャメチャ行きたいですが)、この本を読んだお陰で、「そう、トルコの奴らは良い奴らだよ」と知ったような気になっています。
この本で描かれるトルコ人の特徴は、甘ァ〜いものと脂っこい食べ物が大好きで、料理が上手なデブでハゲ、抜け目ない商売人で、詩作が好きなロマンチスト、客にはとことん親切で、人情愛情があふれてる…
そんなトルコにすっかり魅了された高橋さんは、世界中を巡るつもりだったのが最初に立ち寄ったトルコに居着いてしまい、いつしかトルコ人のTさんと結婚して嫁入りしてしまいます。
数年のトルコ生活の後で日本に引っ越し、日本で外国人と夫婦として過ごす日々もまたマンガの中に描いて行きます。
そして時々トルコに帰省しては描かれるトルコの変化。それでも変わらぬトルコ人の熱い情愛。
このマンガは1992年のトルコ旅行から、割と最近のトルコ事情まで、延々と変わりゆくトルコと高橋さんの日常を描いています。
このマンガの素晴らしいのは、20年以上にもわたってトルコを見つめ、トルコ人の一部となって、トルコの文化習俗を描いていることです。一度の旅行を描いたものはただの記録ですが、その記録を何年も積み重ねれば、人々が過去と現在を知る手がかりとなっていきます。
「トルコで私も考えた」は、とっても面白い紀行エッセー漫画であると同時に、外と中からトルコの変容を観察した、立派な民俗学的資料なのであります。
トルコに興味がある人も、そうでない人も、一見の価値ありです。文庫本は描き文字がちょっと小さいので見にくいのですが。
オススメです!
トルコ人がよく使う言葉のひとつに「インシャアッラー」というのがある
これは「願わくばそうしたい」「アッラーのおぼしめしがあればそうなるでしょう」ということ
私たちのお願いのすべてにアッラーのおぼしめしがありますように
(「トルコで私も考えた トルコ入門編」高橋由佳利)