

第22回「サッカーの憂鬱 裏方イレブン 」
能田達規
プロスポーツを仕事にすることは、こんなに辛くて大変で、魅力的なのか!
サッカーは世界につながっている
(「サッカーの憂鬱 裏方イレブン」能田達規)
私はサッカーを見るのは好きなのですが、私自身がサッカーをプレイすることはありません。そもそもボール持ってないし。中学高校と部活もテニスなんで、サッカーは体育の時間や休み時間に友達とやるものって感じでした。
じゃあなんでサッカー見るのが好きか?ワールドカップやオリンピックの観戦で好きになったという人は多いかと思うのですが、私の場合は能田達規先生の「 」というサッカー漫画を読んで好きになったんですよ!
「オレンジ」の面白いところは、ただサッカーの試合で勝った負けたという話でなく、「Jリーグ(漫画の中では『Fリーグ』と称している)2部底辺のクラブチームが、存続をかけて昇格を目指し戦う」というストーリーだったのですね。だから話の軸に「サッカークラブの運営」というものも含まれていたのです。
金がなくて良い選手がとれない、交通費もないからマイクロバスで移動、行政のサポートが得られずピンチ、でも地域のサポーターの人たちの応援で盛り上がって勝つ…
そういった試合以外の部分での面白さというのを描いたサッカー漫画は当時としては珍しく、あまりサッカーに興味の無かった自分にも面白く思えました。
で、当時オタク少年だった私は「サカつく」というクラブ経営ゲームにも手を出したり、能田達規の次なる作品「 」というサッカークラブ経営漫画を読んで、ワールドカップよりもJリーグの試合に興味を持ち、ますますサッカーを経営したりする裏方に心惹かれるようになったわけです。
そんな「試合の裏側」を見せてくれる漫画を、また能田先生が描いちゃったわけですよコリャコリャ。それがこの「サッカーの憂鬱 裏方イレブン」だー!
この作品に出て来る「裏方」たちは多種多様。「審判」や「実況アナウンサー」など誰もが知ってる仕事もあれば、「ホペイロ」「ターフキーパー」などのあまり知られてない仕事から、「料理人」「クラブ営業」など、そんなところも?って思うような仕事まで、様々な裏方が登場します。というか、「サポーター」という仕事じゃなくて観客までもスポットライトを浴びます。
「みんな大好き、サッカー」ですが、それを生業とすることはとても大変なことです。
私はそれだけでリスペクトに値すると考えて、このシリーズを描き始めました。
しかし、この単行本には本来の主旨とは異なる話が一編混ざっています。それはコアサポーターです。
コアサポーターは職業ではありません。それでも「永遠のライトサポーター」の私は、リスペクトの対象としてコアサポーターを描いてみました。
サッカー文化を形成する大きな仕事には違いないのですから。
(「サッカーの憂鬱 裏方イレブン」能田達規)
私が特に好きなのは一番上で引用した「通訳」のエピソードです。
頑固者のクロアチア人監督に付き添う、通訳の青年が主人公。彼は元々ロシアに留学してからベラルーシの大学院に進んだ後、コーディネーターの紹介で高知のサッカークラブで通訳をやることになりました。しかし監督の攻撃的な発言を柔らかい表現になおして選手に伝えたり、監督の個人的な身の回りの世話を要求されたりと、なかなか気が休まりません。
そんな中、田舎クラブでくすぶってる自分が嫌になりクサってる選手から相談を受けます。南米でもヨーロッパでも、世界に出ていきたいのに、自分は何をやっているのだろうと。その選手に通訳の青年はこう言います。
「そうだな…しかしオレだって東北からベラルーシ…そしてなぜかこの日本の四国に来た
こんな田舎でもサッカーだけは世界につながっているーーってことだ」
(「サッカーの憂鬱 裏方イレブン」能田達規)
そして試合の日、監督はその選手のふがいないプレーをメチャクチャになじります。果たして彼はどのように監督のメッセージを伝えるか?ぜひご自身でお確かめください。
ということでこの「サッカーの憂鬱」は能田達規による「サッカー版プロジェクトX」とも言える作品です。サッカーに興味が無い人でも、組織を支えるプロフェッショナルとはどのようなものか?仕事とは?サッカーとは?ということを考えるには良い本だと思います。全2巻で一話完結なのも、気分転換に読みやすくて良いですね。
オススメです!