

第32回「オタク・イン・USA」パトリック ・マシアス
オタクは全米で大人気!…全米の一般人でなく、オタクに。
世界のオタクたちが日本のオタク文化とファースト・コンタクトするきっかけはそれぞれ違うけれど、根っこの部分には共通するものがあると思う。つまり、彼らはみんな生まれてからずっと自分をとりまく環境、支配的な文化に対して不満があって、そこからの脱出を日本製のファンタジーに求めたんだ。砂漠の惑星タトゥイーンの農民として暮らすルーク・スカイウォーカーが宇宙に憧れたように。日本こそは「新たなる希望」なのだ。
(「オタク・イン・USA」パトリック・マシアス)
「電車男」が流行ってからこっち10年くらい、秋葉原がオタクでクールな町だとかなんとか、クールジャパンってのが大流行りですな。アニメや漫画や初音ミクなんかが世界中あちこちでウケてるもんで、「オタクが海外で流行ってる=日本凄い」という謎の方程式を立てつつ、オタクを海外に輸入して儲けようなんつうヨタ話に外務省やアレやソレやもトチ狂ったような妄言はいてて大丈夫かしらと心配になる昨今ですが、いかがおすごしでしょうか。
さて、今回ご紹介する本は、そんな「海外で広がる日本のオタク文化」について、特にアメリカではどうなってるのか、どんな歴史をたどってるのかを紹介した本、「オタク・イン・USA」です。
といっても2006年の本なのでもうだいぶ情報も古いのですが、それでもアメリカのオタク連中ってのがどんなものかを知るのには、今のところこれ以上の文献は無いという代物です。
この本はもともと雑誌連載されていたコラムを単行本にまとめたものなので、一つ一つの短いトピックで区切られているので読みやすくてオススメです。
それぞれ「アメリカでパフィーがどんな風にウケてたか」とか「アメリカでのガンダム放映ってこんな感じ」「セーラームーンを見たアメリカの女の子たちはこういう感想だった」「アメリカにはこんなスゲえオタクがいる」等々の内容で、テーマは様々。それぞれのコラム同士のつながりはあんまりないのですが、全部通して読むと、一枚の巨大なモザイク画のような「アメリカン・オタク像」が浮かび上がってきます。
それはやはり、上の引用文にあるような「自分をとりまく環境に不満をもって、そこから脱出したいと思ってる人たち」なのですね。つまり、日本のオタクと同じ人たちなのです。
僕は大学時代を東北で過ごしました。それこそ東北なんてのは、アニメもねえ、特撮もねえ、漫画も本屋に置いてねえ、「オラこんな村いやだ」の世界でして、そこでオタク趣味もってる連中というのは大体「いつかテレビ神奈川やMXテレビの見れる地域に引っ越してやる!」と息巻いていたものでした。僕は彼らの話を聞くと「それなら進学する時に東京行けば良かったじゃん」と思いましたが、まあ金銭的な都合や家庭の事情などで東北から離れられない人というのも沢山いるわけです。
しょうがないので彼らや僕は、ネットのアレなナニのソレでナンヤカヤしながら、ようやく東京で放映されてるアニメを見たりしてたわけですが、こんな危ない橋を渡らずにアニメがみたいもんじゃのうと言い合ってました。
僕はアニメより漫画派だったので、アマゾンなどでなんとかなる部分も大きかったのですが、中野のまんだらけやタコシェに行くたびに「ああ、俺の家がこの近所だったら…」と思わずにはいられなかったものです。
そういうモテないオタク連中の一員であった僕からすると、このアメリカのオタクたちを見てても「お前はオリだ!お前はオリなんだよう!」としか思えないのであります。
そして、僕のような連中が一番嫌うことはまた、アメリカのオタクたちもまた嫌うことなのであります。
つまり、「自分たちのもの」なはずのオタク文化に、甘い汁だけ吸いにくる外野の連中です。
2003年夏、カリフォルニアのアナハイムで開かれたアニメ・エキスポに言った時、ハリウッドから来た業界人たちは遠くからでも一目でわかった。なぜなら明らかに場違いな高そうなイタリアン・スーツとデザイナー・シューズでドレスアップしてるのは、やつらだけだから。
………
この現状に対して、ベテランのオタクたちは苦い顔を隠せない。………彼らは誰よりもアニメが世間に認められることを願っていたが、望んでいたのは作品として評価されるおことであって、ビジネスマンどものに食い物にされることではない。このにわかアニメ・ブームから生まれるのは、せいぜいハリウッドによるアニメやマンガのダサい実写版くらいだろう。
(「オタク・イン・USA」パトリック・マシアス)
しかし、いまのハリウッド映画ってほとんど漫画の実写化ですよね。トランスフォーマーとかスパイダーマンとか…。日本映画も同じです。ていうか日本映画の方が漫画原作ばっかりですね。してみると案外、ビジネスマンたちの世界がアニメや漫画に乗っ取られてしまってるとも言えるのでしょうか?
まあ、さらに本当のことを言えば、ビジネスマンたちがうまい汁を吸おうが、外務省がオタク外交で儲けようが、オタクたちにとってはどうでもよくて、それよりも面白いアニメや漫画をもっと手に入りやすくしてくれ、ってのが大事なのですが…。